『プレミアム白内障手術』という選択

『プレミアム白内障手術』という選択

白内障手術の進化と「見え方の質」を考える選択肢

「白内障手術を受ければ、また見えるようになる」——。
これは白内障治療の基本的なゴールであり、医学の進歩がもたらした大きな恩恵です。
しかし、現代の白内障手術は、単に「濁りを取る」という段階から、さらに先の「術後の見え方の質(QOV: Quality of Vision)をいかに高めるか」という新たなステージに進んでいます。
もしあなたが、手術後の生活においてメガネへの依存を減らし、仕事や趣味をこれまで以上に快適に楽しむことを望むなら、先進的な選択肢の一つである『プレミアム白内障手術』について知ることは、有益かもしれません。

Step 1:一般的な手術とプレミアム白内障手術の違い

両者の最も大きな違いは、手術の「全工程」において、術後の見え方の質を追求するための技術や選択肢が異なる点にあります。

比較項目

一般的な白内障手術
(保険診療)

プレミアム白内障手術
(自由診療)

① 水晶体の処置

執刀医の手技(メス、超音波装置)

フェムトセカンドレーザーと超音波装置

② 眼内レンズ

単焦点眼内レンズ(1点にピント)

多焦点眼内レンズ(老視矯正眼内レンズ)(複数距離にピント)

③ 乱視

矯正されない場合が多い

乱視矯正も同時に行い、より鮮明な視界を目指す

④ 適合性

標準的な眼科検査

ライフスタイルも考慮した精密検査・カウンセリング

目指すゴール

濁りを取り、視力を回復させる

裸眼での生活の割合を増やし、生涯のQOV向上を目指す

これはどちらが優れているかという単純な話ではなく、手術に何を求めるか、という目的の違いによる選択肢です。

Step 2:レーザー技術による高精度・低侵襲な手術

プレミアム白内障手術で用いられる**「フェムトセカンドレーザー」**は、手術の精度と安全性を高めるための先進技術です。

レーザー水晶体再建術とは?

これまで執刀医が手技で行っていた重要な工程(角膜切開、水晶体嚢の切開、水晶体の分割)を、コンピューター制御下の精密なレーザーで行う方法です。
  • 眼内レンズの性能を最大限に引き出す正確性

眼内レンズを固定する「窓」となる水晶体嚢の切開は、術後の見え方を左右する重要な工程です。レーザーを用いることで、極めて正確な「真円・中心」での切開が可能となり、眼内レンズが理想的な位置に固定され、その光学性能を最大限に発揮することに繋がります。

  • 目への負担(侵襲)の低減

濁った水晶体を砕く際、従来は超音波エネルギーのみを使用していました。レーザー手術では、あらかじめレーザーで効率的に水晶体を分割するため、この超音波の使用量を大幅に減らすことができます。これにより、角膜など目の組織へのダメージが軽減され、術後の回復を早める効果が期待できます

Step 3:ライフスタイルに合わせた老視矯正眼内レンズ(多焦点眼内レンズ)の選択

プレミアム白内障手術のもう一つの核が、**「老視矯正眼内レンズ」**の選択です。これは白内障治療と同時に、多くの方が悩む「老眼」も矯正できる高機能なレンズ群の総称です。

老視矯正眼内レンズの種類と特徴

ピントが合う距離が1点(主に遠方)の単焦点レンズとは異なり、複数の距離にピントを合わせる能力を持つのが老視矯正眼内レンズです。
近年、レンズの技術開発は目覚ましく、単なる「多焦点」という枠組みだけでなく、より広く「老視を矯正する」という観点からレンズが分類されるようになりました。
出典の論文でも指摘されているように、「老視矯正眼内レンズ」という包括的な考え方が主流になりつつあります。これには主に以下のような種類があり、個々のライフスタイルに合わせた選択が可能になっています。
  • 多焦点型(3焦点): 遠方(運転・景色)・中間(PC・料理)・近方(読書・スマホ)の3つの距離にピントが合うよう設計されています。幅広い生活シーンをメガネなしで過ごしたい方に適しており、バランスの取れた見え方が特徴です。(例:PanOptix,Gemetoric)
  • 焦点深度拡張型(EDOF): 遠方から中間距離にかけて、切れ目なく自然に見えるようにピントの合う幅を広げたタイプです。色のコントラスト感度が良好で、夜間の光のにじみ(ハロー・グレア)が少ない傾向にあるため、夜間運転が多い方や、より見え方の質を重視する方におすすめです。(例:Vivity,PureSee)
  •  ハイブリッド型: 焦点深度拡張型(EDOF)の技術をベースに、近方の見え方を強化するなど、異なる技術を組み合わせた新しいタイプのレンズです。特に中間から近方の範囲がクリアに見えるよう設計されており、読書やPC作業、手元の細かい作業が多い方に適しています。(例:Odyssey)
どのレンズが最適かは、目の状態だけでなく、その方の仕事、趣味、生活習慣によって異なります。そのため、手術前の精密な検査と丁寧なカウンセリングが極めて重要になります。



(注記)レンズの種類や特徴に関する記述の一部は、以下の学会発表を参考にしています。
出典:ビッセン宮島弘子, 「新しい多焦点眼内レンズ」, IOL & RS: Japanese Journal of Cataract and Refractive Surgery, 2024, 36 巻, 1 号, p. 36-41.

Step 4:費用とその価値について

多焦点眼内レンズ(老視矯正眼内レンズ)を用いた白内障手術を検討する際、費用には主に「選定療養」と「自由診療」という2つの考え方があります。

選定療養と自由診療の違い

  • 選定療養
    通常の白内障手術(保険適用)に、患者様が希望する追加的な医療サービス(多焦点眼内レンズ(老視矯正眼内レンズ))を組み合わせる制度です。この場合、「通常の手術費用」は健康保険が適用され、「多焦点眼内レンズ(老視矯正眼内レンズ)の差額分」のみ自己負担となります。費用を抑えながら高機能レンズを選びたい場合の選択肢です。
  • 自由診療
    フェムトセカンドレーザーの使用など、保険適用外の技術や手術を組み合わせる場合は、手術全体が自由診療となります。この場合、診察、検査、手術、薬剤など、すべての費用が自己負担となります。このコラムで紹介しているレーザーと多焦点眼内レンズ(老視矯正眼内レンズ)を組み合わせた「プレミアム白内障手術」は、これに該当します。

費用の内訳と長期的な視点

自由診療や選定療養の費用には、主に以下のような要素が含まれています。
  • 先進技術の費用: フェムトセカンドレーザーのような先進的な医療機器の使用や、精密な術前検査にかかる費用です。これらは、より高い精度と安全性を目指すために用いられます。
  •  高機能眼内レンズの費用: 多焦点眼内レンズ(老視矯正眼内レンズ)は、白内障治療に加えて老眼の矯正も目的とするため、保険適用の単焦点レンズとは価格が異なります。
  •  長期的なコストの検討: 手術によって、これまで使用していた遠近両用メガネなどが不要になったり、使用頻度が減ったりする可能性があります。そのため、将来的なメガネの買い替え費用なども考慮に入れて、長期的な視点で費用を検討される方もいます。

最後に:ご自身の「納得」が最も大切です

プレミアム白内障手術は、すべての人にとって必須の治療ではありません。

しかし、
「これからの人生、できる限りメガネに頼らず生活したい」
「仕事や趣味において、クリアな視界を保ち続けたい」
といったご希望をお持ちの方にとっては、その価値を深く感じられる、有力な選択肢の一つとなるでしょう。
大切なのは、ご自身のライフスタイルや価値観に合った「見え方」は何かを考え、それぞれの治療法のメリット・デメリットを正しく理解した上で、ご自身が納得できる選択をすることです。
より詳しい情報が必要な方、ご自身の目が適応となるか知りたい方は、専門の医療機関で相談されることをお勧めします。