「多焦点レンズを入れたけど、ピントが合うまでに時間がかかる…」
「遠くから手元に視線を移すと、一瞬ぼやけてしまう」
「これって、レンズが合わなかったのかな？」

そんな不安を感じていらっしゃるかもしれませんね。

ご安心ください。実はそれ、目（眼内レンズ）の性能が悪いのではなく、あなたの「脳」がまだ新しい見え方に戸惑っているサインかもしれません。

多焦点レンズの見え方は、「目（レンズ）」と「脳（処理能力）」の二人三脚で成り立っています。
この記事では、レンズの性能を最大限に活かすための、"脳" を上手に使った見え方のコツを、分かりやすくご紹介します。

白内障手術で入れた多焦点レンズは、言わば「高性能なカメラレンズ」です。
そして「脳」は、そのレンズが捉えた映像を処理する「高性能なコンピュータ」です。

ここで重要な違いがあります。

単焦点レンズは「遠く」など、1つの映像だけを脳に送ります。
しかし多焦点レンズは、「遠く」「中間」「近く」の映像を（程度の差こそあれ）同時に脳に送ります。

脳は、その複数の映像の中から「今、この人が一番見たいのは "手元のスマホ" だな」と判断し、それ以外の「遠くの景色」の映像を"無視"する、という高度な処理を行っています。

この脳の順応プロセスは、専門的には「ニューロアダプテーション（神経順応）」と呼ばれています。

手術直後は、脳がこの「映像の取捨選択」に慣れていないため、「ピントが合いにくい」と感じるのです。
これは正常な経過ですので、焦らずに、脳が新しい見え方に慣れるのをサポートしてあげることが大切です。

💡 ポイント
見え方の安定には個人差があります。術後1週間で慣れる方もいれば、1〜3ヶ月かかる方もいます。ご自身のペースで大丈夫です。

脳に「今見たいのはコレ！」とハッキリ伝えるための、3つのコツを試してみましょう。

ぼんやりと視線を動かすのではなく、「今から手元の本を読むぞ」「次はカレンダー（中間）を見るぞ」と、見る対象を "強く意識" してみてください。

脳に対して「これからこの距離の映像を処理してください」と、明確な「命令」を送るイメージです。

この「意図する力」が、脳の映像処理を助け、ピントが合うスピードを早めます。

視線を移してすぐに「見えない！」と諦めないでください。

見たい対象に視線を移したら、意識を集中させたまま「1、2」と心の中で数えてみる。

脳が送られてきた複数の映像から、正しいものを選び出すための「処理時間」を与えてあげるイメージです。
焦らないことが重要です。脳が順応するには、少しの時間が必要なのです。

特にPC作業など、中間距離がぼやける時に有効なコツです。

目だけで横目でチラッと見るのではなく、見たい対象（PCモニターなど）に、しっかりと「顔ごと（おへそごと）」正面から向き合うように意識してください。

レンズの光学的な中心（一番性能の良い部分）で見たい対象を捉えることで、脳に送られる映像がクリアになり、処理がしやすくなります。

新しい見え方に慣れるまでは、脳も普段よりエネルギーを使っています。
脳を疲れさせないため、以下の習慣を取り入れてみましょう。

• 30分PC作業をしたら、5分遠くを見て目を休ませる

  • 脳の処理負荷を減らし、リフレッシュ効果があります

• 暗い場所で無理に見ようとしない

  • 脳の処理負荷が上がるため、適切な明るさを確保しましょう

• 睡眠をしっかりとる

  • 脳が情報を整理し、新しい見え方に順応するために重要です

多焦点レンズで見えにくいと感じたら、「レンズが合わない」と結論づける前に、ぜひ「脳を使った見え方のコツ」を試してみてください。

見ているのは「目」ですが、それを「見えた！」と認識しているのは、あなたの「脳」です。

意識的なトレーニングで脳を慣らして、快適な視界を手に入れましょう。

術後の見え方には個人差があります。
「これって正常なの？」「もっと早く慣れる方法はないの？」など、気になることがあれば、ぜひ当院へお気軽にご相談ください。

専門の機械で詳しく検査し、あなたの見え方を一緒に確認させていただきます。
新しい見え方が、あなたの世界をさらに広げてくれることを、心より願っています。